恒例の?昭和ドラマシリーズ、今回は「パパと呼ばないで」です。
このドラマは1972(昭和47)年10月~1973(昭和48)年9月まで1年間、全40回放映された石立鉄男氏主演のホームコメディドラマです。
石立主演&ユニオン映画製作のタッグで1970年代の日本テレビ水曜20時台を席巻したいわゆる「石立ドラマ」のひとつで、一連の作品には以下のものがあります。
当時は視聴率的にそれほどあった訳ではなく、TVでモノマネなどが披露され、再放送を重ねるうちに人気が上昇してきた番組だそうですが、一連の石立ドラマの中では世間で最も知られ、石立氏の名実ともに本格的な一本立ちで主演し始めた作品かと思います。
当時は役者の連ドラ「掛けもち」は当たり前で、この時期にこれだけ活躍してきた石立氏も例外ではなく、この間に坂上二郎氏主運「夜明けの刑事」(1974(昭和49)年10月~1976(昭和51)年)という刑事ドラマで存在感のある鬼課長・相馬を演じ、これは水もれ甲介出演と被っていて、以後大映ドラマの常連として主演ではないものの重要な役どころを演じ、1977(昭和52)年からは「赤い激流」「赤い絆」「赤い激突」など一連の「赤いシリーズ」に立て続けに出演しており、下記ホームコメディとは対照的にシリアスな役柄を演じていました。
また、この石立ドラマの中でも他の作品と最も異なる点は、子役が作品のウェートの多くを占めている事です。
「チー坊」として、石立氏のセリフ回しと共に話題になり、天才子役と謳われた杉田かおる氏の初レギュラー作品でもあり、このチー坊がストーリー展開のキーになる事が多く、パパとチー坊、あるいはパパの下宿先の家族とチー坊の心の交流が多々描かれた作品であるという点が、このドラマの大きな特色のひとつです。
タイトル | 放映期間 | 回数 | 出演者 |
おひかえあそばせ | 1971(昭和46)年4月~9月 | 13回 | |
気になる嫁さん | 1971(昭和46)年10月~1972(昭和47)年9月 | 38回 | |
パパと呼ばないで | 1972(昭和47)年10月~1973(昭和48)年9月 | 40回 | |
雑居時代 | 1973(昭和48)年10月~1974(昭和49)年3月 | 26回 | |
水もれ甲介 | 1974(昭和49)年10月~1975(昭和50)年3月 | 25回 | |
気まぐれ天使 | 1976(昭和51)年10月~1977(昭和52)年10月 | 43回 | |
気まぐれ本格派 | 1977(昭和52)年10月~1978(昭和53)年9月 | 38回 |
簡単なストーリーとしては、
独身サラリーマンの安武右京は、自身の姉危篤の報を受け、千葉県銚子の入院先の病院へ駆けつけるが、姉の死に目に遭えず、遺された6歳の一人娘・千春の引取りを巡り、親族会議がなされるも、たらい回しの状態となり、疎まれる千春を見かねた右京が引き取る事を申し出る。
独身男の右京は子育てなど知るはずもないまま、母を亡くしたばかりの6歳の娘を引き取る事となり、千春は一言も口を聞かず悪戦苦闘。東京の下町・佃島の米屋「井上精米店」を訪ね、姉の子供である娘共々下宿したいと申し出る。この米屋には主人夫婦と適齢期の娘2人と受験生の息子がおり、右京・千春とこの家族との共同生活が始まる事となり、色々な事件が起こりつつも心の交流を重ねていく、というちょっとしたサラリーマン版寅さんのようないかにも昭和の温かいハートフルコメディとなっています。
ちなみに「相棒」で水谷豊氏演じる杉下右京のネーミングは、ここで石立氏の演じた安武右京(やすたけ・うきょう)からとられたものだそうです。
という事でレギュラー紹介
安武 右京(石立鉄男)
本作の主人公。石油販売会社に勤める30歳の独身サラリーマン。姉の死後に遺された一人娘・千春を引き取る決意をし、本当のパパ以上に千春を立派に育てると決意し向き合う。普段は陽気で楽天的な男で周りの事をあまり気にしない感があるが、千春の事となるとムキになり、また情に大変熱い男でもある。
演じる石立氏は、コメディからシリアスまで幅広くこなす役者として、この辺りから本格的に主演俳優として一本立ちしてきた感があり、その後はコミカル、シリアス極端な役の振れ方になったが、この作品では三枚目の中にも二枚目の面を多々表していた感があった。
橋本 千春(杉田かおる)
ドラマの代名詞ともいえる「チー坊」として、ストーリー展開のキー的存在で、右京の姉の一人娘の為、安武ではなく「橋本」姓である。6歳の時に母を亡くし、右京に引き取られるが、実の父は千春が小さい時に家を出て更に母の死で天涯孤独の身となる。右京が頑張って親になろうとするも「本当のお母さんがいない」事を常に引きずっている。当初は猫のニャロメを飼っていたが、途中でいなくなる。よく泣いたり、家を出たりして、ストーリーが急転していく事が多く、また下宿先の米屋では家族全員から家族同様にかわいがられる。当初は幼稚園児だったが、途中から小学生に上がる。
演じる杉田氏は、この作品が初レギュラーで、次の石立ドラマ「雑居時代」にも引き続き出演、その時は石立氏と親子ではなく、下宿先の末娘の設定。天才子役と称されたが、その後も「3年B組金八先生」で15歳の母親として再度世の注目を浴び、「池中玄太80キロ」の出演や「鳥の詩」で歌手としてもヒット。後に仕事がなくなった際にはこのドラマが縁で石立氏よりオファーを受けた事もあったとか。
井上 精太郎(大坂志郎)
右京の下宿先である「井上精米店」の主人、井上家には婿養子で入った為旧姓・田中である。典型的な江戸っ子で、古風な昭和のおやじで義理人情・筋を通す事を重んじるが、酒が回らないと言いたいことが一度に言えないところがある。また江戸っ子のくせに何故か阪神ファン。右京に父親として男としての立ち振る舞いをそれとなく教える親父代わりの人生の先輩でもあり、またチー坊の事が大好きで「おじちゃん」と呼ばれている。
演じる大坂氏は、石立ドラマ初期の立役者として共演。また「大岡越前」のベテラン同心・村上源次郎として長く活躍。
井上 時江(三崎千枝子)
精太郎の妻。夫は婿入りの為、米屋の生まれである。チャキチャキした性格で思ったことをはっきり言うタイプのニッポンのおっかさん的な存在で、はっきりしない態度をとる夫にイライラする事も多々。チー坊の事を「チーちゃん」と呼んでかわいがり、右京が千春をぶったりする時は体を張って守る。
演じる三崎氏の代表作はなんといっても「男はつらいよ」のおばちゃん。バイプレーヤーとして昭和のおばちゃん五指には確実に入る役者さん。
井上 園子(松尾嘉代)
精太郎・時江の長女。良い年で独身の為、トウが立ってるとか行かず後家などといわれる事もある。母譲りのチャキチャキした性格で、頑固な面も強く男相手も臆さずハッキリとモノを言う。美容院に勤めていてヘアカットをしている。右京とは初対面から印象が大変悪く、以後も事あるごとにケンカをしているが、最終的には右京と結ばれる事となる。
演じる松尾氏は、どちらかというとダークな世界に生きる女、的な役どころが多く、そのイメージでこの作品を見ると非常に新鮮。勝気な性格は他の出演作品と同様ながら、ハキハキしなから可燐な雰囲気を持ち合わせ、純真な笑顔を見せたり、個人的にはそれまで持っていた松尾嘉代像がこの作品見てひっくり返った。
井上 和子(有吉ひとみ)
井上家の次女で、園子の妹。母や姉同様のチャキチャキした性格でありながら、落ち着いた賢い一面も持つ。チー坊の幼稚園の送り迎えは彼女がすることが多い。当初は男性陣同様にチー坊と呼んでいたが、後にチーちゃんと呼ぶようになる。右京に密かに恋心を抱くも姉に譲る決心をし、またバイト先の友人の店の男にも惚れていたがその友人と結ばれることとなり、隠れた悲劇のヒロイン。その悲劇性を陽気な性格で打ち消している感が尚悲しい。
演じる有吉氏は、「太陽にほえろ!」で殿下の最初の恋人役として登場し、その後ブランクを経てボギーの姉役で出演しており、セミレギュラーを複数こなした稀有な存在。
井上 昇(小林文彦)
井上家の長男で、園子・和子の弟。いつも受験勉強で忙しいと言いつつも成果が上がっている感が薄い。チー坊にとっては最も年の近い存在で、家内で唯一大人ではない存在につきチー坊の遊び相手になったり、2人で内緒の行動をする事も多く、これが事件につながるストーリーも少なくない。早とちりでどんくさく、コメディリリーフの役割も多分に果たしている。
治子(冨士真奈美)
近所の魚屋「魚敏」の娘で、離婚した「出戻り」。千春の事をいつも気にかけていると言いつつ、その実は右京の事が好きで何かと世話を焼こうとして空回りしている。また園子とはソリが合わずよくケンカしている。後に千春の母となる存在として園子にかなわないと悟り、園子に対して右京の事を諦めて身を引くと宣言している。時にシリアスであるが、大体はコメディリリーフの役目を果たしている。
金造(花澤徳衛)
「魚敏」の主人で治子の父親。精太郎とは幼馴染で昔よくケンカをしていた仲。精太郎同様の生粋の江戸っ子で、頼まれたら嫌とは言えない性格。鳥が大の苦手でカナリヤを引き取らされた時は頼むから追い出してくれと治子に懇願している。
内田(江守徹)
右京の勤めている「八方石油」の社員で右京とは気心知れた悪友。妻がいるにも関わらず、家に帰れば右京たちと麻雀三昧の日々を過ごしていた。右京の相談相手であり、また右京が海外勤務を彼に譲った時は涙ながらに井上家の家族に彼の優しさ、カッコよさを訴えた。
村松(近藤洋介)
八方石油の係長だが右京の上司かは不明。会社ではモテる存在で専務の娘との縁談が決まっていたが後に破談。園子に一目惚れしアプローチするも結局は実らぬ結果になる。
課長(福岡正剛)
八方石油の課長で右京の上司。大声ではしゃいでいる右京を何気にたしなめているシーンが多い。右京がチー坊の為に買ってあげた晴れ着を会社余興の景品と間違って持ち帰り、娘に着せてしまったエピソードがある。
由美(井上れい子)
和子の友人で、病気の母に代わって居酒屋「若松」を切り盛りしている。一緒に働いている良一と結ばれる。
良一(森下哲夫)
「若松」の板前。いつもは調子のいいお兄ちゃんだが、和子に密かに思いを寄せられている事に気づかず、由美と結ばれる。
橋本(松山英太郎)
千春の本当の父親。千春の誕生後間もなく他の女と家を出た為、千春には本当のお父さんの記憶がなく、ある日「どうしても千春に会いたい」と右京に切り出すも罵倒される。後に「本当の父親と名乗らない」条件で千春と一度だけ会い、一緒に砂遊びをした後、千春に「おじさん、さようなら」と言われた後、悲しい背中を見せて去っていった。