俺たちのヒーロー列伝・その24 渡辺裕之(1955~2022)
続いてのヒーローは…
森田健作(もりた・けんさく)さんです。
近年では、千葉県知事など「政治家」のイメージが強いですが、元々は「青春の巨匠」として、まさに「青春」の代名詞的な俳優であり、「青春」というワードで真っ先にイメージする俳優です。
それまでにも「青春ドラマ」はありましたが、それらは大抵教師が主人公で、青春時代を過ごす生徒たちとの交流を描いたものでした。
森田さんが革命的だったのは、その青春ドラマに「生徒役として主人公になった」事でした。
それからは「青春」というば森田さん、と真っ先に連想されるくらい、一時代を築き、また「いくつになっても青春」を実践されている方と思います。知事時代は苦難に満ちた表情が目立ち、大変厳しい状況でしたが、今はその知事も退任しています。
意外にも?サンミュージック所属タレントの第一号で、その後桜田淳子さん、松田聖子さんなどが所属する大手となっていきます。
そんな森田さんが演じた役柄で、個人的にヒーロー性を感じたものを挙げていきます。
「おれは男だ!」/小林弘二
1971(昭和46)年2月~1972(昭和47)年2月まで放送された学園ドラマです。
この作品こそこのドラマのまさに彼が「青春の巨匠」として名を上げる作品であり、そのまま彼の俳優として代表作的に取り上げられる事となる作品です。
そんなドラマですが、実は個人的にはあまり見れていないドラマで、元々女子高だった女性ばかりの高校に、男として転校してきて、男性は数が少ない事もあり圧倒的不利で、男性の権利向上といわんばかりに彼が演じる主人公が剣道部を立ち上げる話、というのは知っていますが、断片的にしか見た事がなく「吉川くぅーん」というのは見ましたが、あとは剣道に打ち込むシーンぐらいしか記憶にないですね。
このドラマの主題歌「さらば涙と言おう」が大ヒットして、歌手としても実に28枚もシングル曲を出しているのが意外な事実?でした。10枚程度かと思っていましたが、この曲がなんと6枚目であり、以後80年代、90年代、00年代にも少ないながらシングルリリースを行なっていました。
このドラマと並行して「青春を突っ走れ!」(1972年)に主演、またこのドラマの成功を受けて続編的に「おこれ男だ!」(1973年)に主演して、「青春」スターの名を確固たるものにしていきます。
また、このドラマの後番組は村野武範さんか主演した「飛び出せ!青春」で、再び教師モノに戻りますが、青春ドラマが大いに隆盛した時代となっていきました。
「気まぐれ天使」/榎本一光
1976(昭和51)年10月~1977(昭和52)年10月に放送された、石立鉄男さん主演のいわゆる「石立ドラマ」末期の作品です。
昭和40年代はほぼ学園ものの主人公、という立ち位置でしたが、昭和50年代に入ると脇へ回って、存在感を見せる事が多くなってきました。
ここでは主人公・加茂忍(演:石立鉄男)の相棒的な後輩役として出演、石立さんにいつも「エノ!」と呼ばれていて、後に「教師びんびん物語」(1988年)で田原俊彦さんが野村宏伸さんに「エノ!」と呼ぶんですが、個人的には「エノ!」といえば、ここでの森田さんのイメージですね。
エノはエリートで、先輩である忍の上司として副部長になり、また家も裕福ですが、忍には義理堅く、人間的な礼儀や優しさもちゃんと持っていて、童話作家として社業はそこそこにする忍の事をに過渡期にかけていました。いつもピシっとスーツを着こなしていた姿が印象的でした。
最終的には、後期のマドンナとして登場した酒井和歌子さん演じるバイくで出勤する「部長」と、この榎本が恋仲になり、主人公の忍は失恋をする格好になりますが、それが不幸な結末にならないところが、この手のドラマの良いところでもありました。
1976(昭和51)年7月~10月に放送された「必殺」シリーズの1作で、それまでの必殺シリーズ7作はほぼ2クールの作品で定着していましたが、この作品が8作目にして、初の1クール(13話)作品でした。
初の時代劇出演で、必殺シリーズではおなじみの「殺し屋」役に起用されました。
山田五十鈴さんが主演で、緒形拳さん、芦屋雁之助さん…という重鎮に囲まれての「若き殺し屋」天平を演じていました。
必殺シリーズでは、初期こそ沖雅也さんや宮内洋さんなど「若くてイキのいい殺し屋」の立ち位置の方がいましたが、その後年齢層が上がり、華麗な殺しかごつい男の豪快な殺しが主流となり、久々に走ったり飛び蹴りしたり、という若手らしい殺し屋として活躍をしていました。血気盛んでエネルギーに満ち溢れた、という若さを前面に出したタイプではないですが…。
何よりその殺しのシーンが印象的で、彼が演じる「天平」は花火職人で、相手と格闘しながら口で噛んで封を飛ばし発火させた花火玉を相手の口の中に入れて、すかさず口を塞ぐと、相手の胃袋の中で花火が爆発するレントゲン写真が出てくる、という、必殺の中でも特に印象的な殺し技としてよく紹介されます。
この作品はラストにつれてハードな展開となり、ラスト2の話で緒形拳さん演じる「時次郎」が、私怨による単独の暗殺行為に失敗して自爆死し、また最終回で敵の闇組織と真っ向から対立し、まさに全面戦争となり、殺し屋役を演じた全員が「殉職」します。
彼の演じた天平は、寝ていたところを敵組織に急襲され、住処が花火で吹き飛ばされ、爆風の影響で失明してまいます。一緒にいたへろ松(間寛平さん)のナビゲートで、失明しながらも襲ってくる敵を斬りつけて命だけは助かりました。その時に叫んでいた「へろまつぁ~」という発音が青春ドラマでの叫びにとてもよく似ていて、彼のモノマネをする人は大体、この語尾を捉えているように思います(笑)
その後、天平はへろ松のサポートを得て、敵組織の屋敷に乗り込む時に、へろ松を巻き込みたくない為、強引に彼を引き返させ、火のついた松明と花火玉を持って単身敵屋敷に乗り込んでいきます。やはり青春スターですね、そこで助かったからと引き返さない(笑)
目の見えない状態で敵屋敷に乗り込むので自爆覚悟な訳ですが、取り囲んでくる敵に「曇を出せぁ~!」と何度も叫びます、これまた青春の絶叫(笑) 「曇」というのは敵組織の頭目の名前です。敵は斬りつけようとするも、大暴れする天平に手が出せず、いつ花火玉に火がつけらるか分からず迂闊に近づけない状態でした。そうしながら中へはいっていきますが、何せ目の見えない状態で、土間からの段差でつまずき転倒、そのまま花火玉が大爆発を起こし、やがて声も音も聞こえなくなりました。最初見た時は失明の中、敵に取り囲まれ無残に斬り殺されていくのかな、とハラハラしていましたが、死に様の分らない殉職で個人的にはホッとしました。
ちなみに彼は数年後「銭形平次」という18年も続いたロングラン時代劇の一時期(1979-81年)には同心役として出演しますが、殉職による卒業降板となり、時代劇レギュラーでは後述含め大抵殉職してる印象が強いです。
映画「黄金の犬」/
1979(昭和54)年公開の映画で、タイトル通り犬を中心にストーリー展開がなされるもので、この当時テレビドラマでも「炎の犬」「太陽の犬」など類似作品もよく放送されていました。
飼い主と犬がはぐれて、犬の帰巣本能をもとに行方を探して行く中で、犯罪組織にぶつかり、その犬や人が命を狙われるというサスペンスが基本フォーマットです。
ここでは主演の鶴田浩二さんが演じる刑事の部下役で、勇猛果敢に犯人を追い詰めるも、その犯人(地井武男さん)に無残にも銃弾を何発も浴びせられて殉職してしまいます。
「大岡越前」/蕪木兵助
1970(昭和45)年から「水戸黄門」と交互に放送される事の多かった人気時代劇で、森田さんの出演は1984(昭和59)年スタートの第8部から1990(平成2)年スタートの第11部と1991(平成3)年スタートの第12部の1話のみという形です。
当初のこの番組の同心は村上源次郎(大坂志郎さん)というベテラン同心と若手が代る代わる出ていた感じで定着せず、1978(昭和53)年から和田浩治さんが演じる「風間駿介」が中堅どころとして定着するようになり、駿介がややベテランになってきて、当初の駿介の立ち位置にこの兵助が収まった格好です。
当初は新米扱いでしたが、その後後輩同心も登場し、先輩も後輩もいるまさに「中堅」として活躍し、風間駿介を演じていた和田浩治さんや村上源次郎を演じていた大坂志郎さんが相次いで亡くなったという背景もあり、彼の演じる蕪木の存在感が大きくなっていった事もありました。
そういった大人の事情が大きく作用しながらの出演でしたが、最終的には彼自身が政治家へ転身する事がキッカケで降板となりました。
最終作となった第12部の初回のみ出演し、この時はその前に密偵として「猿(ましら)の三次」を演じていた松山英太郎さんも若くして亡くなられた事があり、三次の殉職シーンを過去映像の編集で流し、後半は森田さんのシーンでした。
かねてより惚れていた後輩同心の姉と晴れて結ばれるという中で、事件が発生し、襲われた女性を庇う為に敵に取り囲まれ勇猛果敢に戦うも、無残に斬られまくってしまいます。そこでは絶命せず、伊織(竹脇無我さん)の治療が始められ、そこで大声を上げて痛みに耐え、「あるいは助かるのでは?」と思いましたが、大岡越前(加藤剛さん)ら多くの関係者に看取られながら死を迎えました。
時代劇というスタイルに変わっても、やはり彼は青春スターでした。そして死ぬ役も多かった…。
その後は政治家に転身して…となりますが、俳優として見ていたい人なので、千葉県知事を退任した今、もう一花俳優として咲かせてほしいな、という思いはあります。