今回の昭和ドラマシリーズは「俺たちの勲章」という刑事ドラマです。
【俺たちの勲章】
放映期間:1975(昭和50)年4月2日~9月24日
放映局:日本テレビ系
時間帯:水曜20:00~20:55
回数:全19回
出演:松田優作、中村雅俊、北村和夫、坂口良子、結城美栄子、佐藤蛾次郎、柳生博ほか
「太陽にほえろ!」のジーパン役で大ブレイクした松田優作氏と、「われら青春!」で新米教師として主演デビューを果たした中村雅俊氏のダブル主演として組まれた作品で、優作氏のテレビドラマ初主演作品です。
また後の「あぶない刑事」で大ヒットする2人のコンビ刑事ドラマ(いわゆる「バディもの」)のはしりである作品です。(同時期に他局で「TOKYO DETECTIVE 二人の事件簿」という刑事ドラマも同じようなバディもの(篠田三郎氏・高岡健二氏)として放映されています。
相模警察という所轄警察署に働く2人の若い刑事を中心にストーリーが展開され、事件を解決していきますが、そのほとんどがハッピーエンドではない、どこか苦い思いが残るような、青春の挫折も数多く描かれた作品です。「俺たちの--」というタイトルで、日本テレビ作品ではありますが、この作品の終了後に放映された「俺たちの旅」以降の青春ドラマシリーズとは一線を画した立ち位置とみなされています。
という事でレギュラー紹介
▲中野祐治(松田優作)
相模警察の刑事で本作の主人公。27歳。
独自の信念に基づき行動する為、上層部から煙たがられ、相棒の五十嵐も手を焼くが、拳銃や腕っぷしは強く、銃身の長い拳銃を撃ちまくり、犯人を殴りまくる荒くれ刑事。情に厚く、被害者の心情をおもんばかるあまり、その怒りが犯人へ徹底的に向けられる。
最終回での事件をめぐっての不始末から、田舎の所轄署に飛ばされる事となる。
演じる松田氏は「太陽にほえろ!」のジーパン刑事で一躍大ブレイクし、その約半年後に本作にてTVドラマ初主演、この間は宇津井健氏主演「赤い迷路」(「赤いシリーズ」初作)でヒロイン山口百恵氏演じる少女をサポートする謎の青年を演じていました。
相模警察の若手刑事で24歳。中野の相棒的存在で同僚からは「アラシ」と呼ばれる。
ハードな中野とは対照的なソフトなキャラクターで、いわゆる「甘チャン」的な部分も多々見られ、刑事としては進むべきところを躊躇してしまったり、犯人を結果的に逃がしてしまったり、人間的な優しさが前面に出ることが多い。
常に中野とコンビを組んでいるが、強引な中野を止める役目を務めるが、大抵は中野は突っ走ってしまう。
最終回で、自分は刑事に向いていないとして、中野の左遷を知る事なく刑事を辞職する。
演じる中村氏は「われら青春!」で主演デビュー後半年経っての本作でした。松田氏と共にまさに「これから」というところで、本作終了後は代表作となる「俺たちの旅」に主演し、一躍そのを全国区とし、本作は30年後まで描かれる大ヒット作となりました。ちなみに「われら青春!」の主演は当初は松田氏の方でした。しかし松田氏が「太陽にほえろ!」の新人に決まった為、中村氏に回ってきたという事です。
▲野上係長(北村和夫)
相模警察の係長で、中野・五十嵐の上司。ガミガミい言ううるさ型で、それでも意のままにならない2人の若手に手を焼いている。
演じる北村氏は、本作終了三ヶ月後に「大非常線」(千葉真一氏主演)という刑事ドラマで、同じようなキャラクターの課長役を演じていて、おそらくほぼこの2役の演じ分けはないものと感じました。昭和のおやじ的な頑固なキャラクターを演じる事の多い役者さんでした。
・山下刑事(早川保)
相模警察の中年刑事で、中野・五十嵐の大先輩。常に彼ら若手とは正反対の意見で反りが合わず、野上係長にとっては中野・五十嵐が意に沿わない行動をする場合、彼に命令して事を遂行させることがある。
演じる早川氏は、知的な悪役や理論武装して、主人公らと対立するエリート刑事など、知性を感じさせる強面を演じることの多い役者さん、というのが個人的なイメージです。
▲雪子(坂口良子)
相模警察の庶務担当の女性。五十嵐に好意があり、何かと五十嵐の事を気にかけるが、袖にされることが多く、このようなふくれっ面をする事が多々。
演じる坂口氏は、のちに存在感を上げていき、連続ドラマのヒロインに欠かせない存在となっていきすが、当時はまだマスコット的なキャラクターという感じで、かわいらしさが前面に出ていました。
・大塚香子(結城美栄子)
相模警察付近の小料理屋「あすか」の主人で、中野・五十嵐はしょっちゅう彼女の店へやってくる。
・健次(佐藤蛾次郎)
「あすか」の従業員で、中野の事を師と心酔し、中野の為なら制止する五十嵐を妨害してでも、彼の好きなようにやらせようとする。
▲宮本室長(柳生博)
相模警察のコンピュータ室長で、データに精通している。少々斜に構えた面があるが、中野たちに有益な情報を提供している。
演じる柳生氏は、青春学園ドラマで校長の側近の腰巾着的存在や、ゲストで悪役を演じる事も多かったですが、この数年後は俳優として充実期を迎え、本作の10年後をイメージしてつくられた「誇りの報酬」で中村氏の上司役として再会しています。
・上野原(山西道広)
宮本の部下で関西弁を遣う若き研究員。
演じる山西氏は、松田氏の盟友であり共演作も多数あります。「太陽にほえろ!」ではボギー刑事をナイフで刺し殺す残忍な殺し屋を演じていたかと思うと、その後「あぶない刑事」では捜査課のパパさんこと吉井刑事を飄々と演じておられました。
この作品はゲストが豪華でした。松田氏と「太陽にほえろ!」で共演した関根恵子氏が初回のゲストだったり、「Gメン'75」に出る前の若林豪氏や、また「傷だらけの天使」を終了したばかりの水谷豊氏は19回中2回もゲスト出演をしています。
それに特筆すべきは、後に中村氏の奥様となる五十嵐淳子氏がゲスト出演しており、この共演を機に結婚されたといいます。この翌年には「凍河」という映画で主演コンビを組み、これは石原裕次郎氏が生涯最後に出演した映画でもあります。
独自の信念で動くハードな男と、それを止める青臭いソフトな男のコンビネーションが主軸のドラマで、係員が一致団結して事件を解決していく刑事ドラマとは全く違うタイプのものですが、10年後「誇りの報酬」として具現化する前は5年後に「俺たちの勲章Ⅱ」という形で、キャストも全然違う勝野洋・宮内淳という「太陽にほえろ!」コンビで企画されたことがあるという、どこまで真実なのか?という気もしますが、「誇りの報酬」で松田氏に再登板を打診するも拒否され、中村氏をメインにして根津甚八氏を相棒に持ってきた形で落ち着いたといいます。
このドラマがプロトタイプとなり、「あぶない刑事」へとつながっていく事となりますが、プロデューサーの岡田晋吉氏はこの形を「太陽にほえろ!」へ組み込み、その後の若手コンビであるボン・ロッキーをコンビの妙で掛け合いを入れさせて、一定の手応えを感じたようで、この時代は「殉職」交代の多かった同番組にあって異例の2年以上刑事の人事異動のない「安定期」を作り出し、視聴率もこの時期か最も好調であったといいます。
刑事もののを借りた青春ドラマといえますが、松田氏が「太陽にほえろ!」で燻っていたものがここで主演することで爆発させることができたのか…。