俺たちのヒーロー列伝・その23 天知茂(1931~1985 )
続いてのヒーローは…
つい先日の訃報には大変驚きました。
いつかこのブログで記事にしようと思ってはいましたが、こんなに早く記事にしたくなかったのも正直なところです。
あまりに衝撃でしたが、自分が見てきた限りで、彼にヒーロー性を見出した役柄をいくつか挙げて哀悼の意を表したいと思います。
映画「オン・ザ・ロード」/富島哲郎
1982(昭和57)年公開の映画で、同時上映があの「転校生」です。「転校生」といえば「おれがあいついであいつがおれで」という山中恒さんの有名作品を映画化したもので、男女で互いの身体が入れ替わってしまったという、この有名作と同時上映だった訳です。
渡辺氏のデビュー作ですが、この映画を見たのは10年以上経ってからレンタルビデオで見ました。
白バイ警官の役ですが、冒頭で追跡中にスクーターとの接触事故を起こして、後日その被害者女性に謝罪に行ったところ、姉と車で鹿児島まで向かっているという事で、これを追跡するというものでした。その長い追跡で、所在不明の白バイが1台発生したというので、警察組織を挙げての大追跡劇、というのがあらすじです。
その追跡劇(本人からすれば逃亡)で、警察をいわば敵に回す格好で、周囲の市民から喝采を浴びていたのを思い出します。
CM「リポビタンD」/
個人的に渡辺氏を初めて見たのはこのCMです。
これまで何度もこの「列伝」を書いてきて、CMを取り上げたのは初めてと思いますが、このリポDに関しては、そういう「ヒーロー」を見出すCMだったと思います。
1977(昭和52)年に勝野洋さんと宮内淳さんの「太陽にほえろ!」コンビでスタートした毎回体を張ったこのシリーズで、勝野さんは継続出演しながらコンビが代わっていき、宮内さんに代わって真田広之さんが登場したと思ったら短期間で交代となり、1982年に登場したのが渡辺裕之さんで、自分は当時小学生でしたが「誰これ?」となりました。たぶん新聞の広告欄でその名を見て知ったんだと思います。今思い返すと勝野さんのフォロワー的な若い人、みたいな捉え方をしてたように思います。とにかく体を張ったハードな色んな事にトライされていました。
このCMは10年以上も務めていて、その期間中にブレイクした事もあってか、勝野さんが勇退後も野村宏伸さんと組んでたりもしていました。末期にはすっかり肉体派俳優のイメージもついていたように思います。肉体派俳優的な役柄はあまりやっていなかったように思いますが…
「特捜最前線」/的場刑事
肉体派の俳優でありながら、あまりそのような作品で見かけなかった渡辺氏でしたが、昭和の長寿刑事ドラマでこの作品にだけは出ていました。それもゲストでなく、といって正式なレギュラーでもありませんでしたが、1985(昭和60)年当時大滝秀治さんが演じていたおやじさんこと船村刑事の代打で4話のみ出演していました。この出演の経緯が分かりませんでしたが…。
当時はもうリポDのCMでおなじみとなって2、3年も経つ頃でしたが、それ以外の知名度があまりなく、「特捜最前線」だけにアクションを遺憾なく発揮した訳でもなく、いつの間にか出てきていなくなった感じでした、チラッとは見ましたが記憶にないです。後から見るとデビューから数年の20代の頃の髪型が中途半端だった記憶はありました。長髪でもなく、きりっとした髪型でもなくというところで。
「愛の嵐」/川端猛
東海テレビ制作の昼ドラマの「嵐」三部作の初作で1986(昭和61)年に放送され、主人公・ひかる(田中美佐子さん)とのラブストーリーが話題となりました。幼少期からストーリーが描かれていることもあって、2人とも途中からの登場で、全体の2/3程度の話数の出演でした。
渡辺氏はこの作品ではブレイクまではいかず、田中美佐子さんがブレイクした作品、と個人的には思います。それでもこの作品で渡辺氏の知名度はある程度上がったのは確かです。
昼ドラという性質上か、男女の恋愛ものである場合、女性が主人公となり男性がフォロワー的に準主役になる事が多く、ここでも田中美佐子さんが主演で渡辺氏が準主役の扱いでした。また戦時中が舞台の「時代もの」でもあり、ひかると猛は対等な関係でなく、猛はひかるを「お嬢様」と呼ぶ、そんな関係性でした。そんな中でのラブストーリーがまた主婦層の感情を揺さぶったのでしょうか。そういう意味では主婦層のヒーローだったのかもと今にしてみれば思います。
「華の嵐」/天堂一也
1988(昭和63)年に放送された作品で、「愛の嵐」の成功を受けて制作された(と勝手に思っている)作品です。
この作品こそが、渡辺氏を一気にスターダムに押し上げた作品と思っています。
ヒロインは田中美佐子さんから高木美保さんへ代わり、この高木さんとの黄金コンビが1980年代末期の昼ドラを大いに盛り上げました。
劇中で「お嬢様」の高木さんが発した「ごきげんよう」は流行語になり、小堺一機さんの「ごきげんよう」の番組名はこのセリフからとられたといいます。
実際、当時我々は高校生でしたが、そのクラスでも「ごきげんよう」とあいさつするくらい、世に浸透していました。学校が早く終わってこの昼ドラが見れた時には、前日のストーリーを話し合ったりして、主婦層どころかあらゆる世代を巻き込む昼ドラブームの時代がそこに確かに存在し、その中心にこの渡辺氏の存在があったのです。
ここでは、「愛の嵐」のひかると猛のような主従関係でなく、華族のお嬢様と一般庶民という関係性でした。
三部作で必ず共通するフォーマットとして、渡辺氏とヒロインの恋模様があり、でも離れてしまい、これまた渡辺氏と共に「嵐」三部作すべてに出演している長塚京三氏が必ずヒロインと結婚する(「夏の嵐」を除いて)が、結局は破滅し渡辺氏とヒロインが最終的に結ばれるという、ある程度バレバレになっても見てしまう、そんな中毒性がありました。
ここで演じた天堂一也は、正義感の強い男で、また長塚氏が演じた「朝倉」に対して激しい敵対心を持ち復讐に燃え、しかし互いに好きになった相手・柳子(高木美保さん)がよりにもよってその浅倉と結婚するという…。
そして朝倉はヤクザを使って地上げを進め、天堂のもとにもその手が伸び、この行きがかりで天堂が結婚した妻(岩井友見さん)が殺されてしまうという…そして天堂はより一層「朝倉許さん」となり朝倉を叩き潰す決断をするのですが、かつて愛し合った相手は朝倉夫人となっていて敵対してしまっており、すっかりその妻となった彼女は「夜叉夫人」と揶揄されるようになります。
徒手空拳の天堂が、華族の朝倉家に裸一貫で立ち向かうのを後押ししていた黒沢年男さん演じる飛田組のカシラが男気があって、またカッコ良かったです。
最終的にはその夜叉夫人は目覚め自分の愚かさを悔い、朝倉は自決し、天堂は朝倉と別れた柳子と「金の鳴る丘」の建設に奔走し、子どもたちと幸せに暮らす事になりましたとさ、で物語はハッピーエンドします。
すっかり筋を書き連ねてしまいましたが、この愛と復讐に生きる男を好演して彼の知名度は一気に上がりました。
「さすらい刑事旅情編」/神田真二
人気を博した「華の嵐」終了直後の同じ1988(昭和63)年10月~半年間放送された刑事ドラマで、最終的に1995(平成7)年まで7作つくられた人気作品となりましたが、その初作のみレギュラー出演していました。
おそらくブレイクしなかったら回ってこなかったであろう役で、ようやく「刑事ドラマに渡辺裕之がレギュラー出演する」と思って、カッコいいアクションを期待していましたが、前番組「はぐれ刑事純情派」の流れを汲む人情刑事ドラマでした。多少走るシーンはありましたが、彼のキャラを活かしきれなかった感が自分にはありました。
駅の分駐所が舞台で、宇津井健さんが主役として警部に据えられましたが、実質は三浦洋一さん演じる香取刑事が主人公で、その周りにベテラン刑事や若手刑事がいる、というのが全7作でのフォーマットでした。全作通して、出てくる刑事は三浦氏の先輩か後輩かでしたが、渡辺氏の演じる神田は唯一、三浦氏と対等の役柄でした。
今後、この二人のバディもの的になっていくのかな、と思って続編の報が入った時にキャスティングを見たら渡辺氏が外れていて、代わりに高木美保さんがレギュラー入りしたのはビックリしました。
「夏の嵐」/結城一馬
1989(平成元)年に「華の嵐」で大人気を博したのを受けて制作された完全な二番煎じ的作品です。
高木美保さんとの主役コンビが再登板、という事で、お昼のドラマにもかかわらず大いに注目を浴び、また敵役も同じ長塚京三氏で、今度は高木さんの兄役という形での血縁者を演じました。
音楽も当時新進気鋭だったG-クレフが起用されるなど、その意欲の凄さを感じた作品でもありました。
結城一馬という、天堂一也から頂いた役名で、やはり長塚氏演じる南部家という華族に激しい恨みを抱き、しかし恋心を抱いたのがよりにもよって南部の妹という…。やがて戦争が二人を割き…というのも「華の嵐」とおんなじです。
華の嵐との違いのひとつで、一馬は刑事という職業をもち、南部と対峙するストーリーが描かれ、その中で拳銃を突き付けるとかちょっとしたアクションもあったりしました。
黄金コンビによる安定したストーリー展開は、分かり切ってても見てしまっていた訳ですが、最後になるにつれあまりに二番煎じ度が高くなっていったのが少し残念ではありました。
その他、役どころありますが、書き連ねられるほどみていなかったので割愛しますが、1990年頃は「刑事貴族」あたりに主演しないかな?と思っていましたが、郷ひろみ氏→水谷豊氏になって、「もうないか、残念」と思った覚えがあります。
21世紀にはVシネマで活躍されていたようですが、TVの刑事ドラマで思う存分アクションする役柄を見てみたかったものです。