続々トラベルとかナントカ

日本全792市を訪問した駅や旅の記録です

俺たちのヒーロー列伝・その11 中村雅俊(1951~)

 

俺たちのヒーロー列伝・その10 柴田恭兵(1951~)

 

つづいてのヒーローは…

 

中村雅俊(なかむら・まさとし)氏です

 

このシリーズで初めてといっていいほどの「戦わずしてのヒーロー」です。

 

これまで挙げた方々は、正義のヒーローまたは、刑事ドラマなどのアクションもので人気に火のついた人物ばかりといっても過言ではありませんが、今回はそれよりも「青春スター」というものを確立し、戦いを通してではなく人生として、若者の生きる道として指針を与えたヒーローです。

 

まずデビューが鮮烈でした。

 

リアルでは知りませんでしたが、1974(昭和49)年に日本テレビ系ドラマ「われら青春!」で教師役として主演デビューです。

これは前年まで村野武憲氏主演「飛び出せ!青春」の流れを汲む姉妹編的なドラマで、この番組の約1年後にスタートし、太陽学園という舞台となる高校も一部教師はじめ出演者は1年越しに継続出演となりましたが、中村氏はここでの村野氏の後任の設定で赴任してきた形となっています。

 

ここで演じた「沖田俊」役が好評で、新米にして理想の教師像を体現し、 更には挿入歌として起用されたデビュー曲「ふれあい」もオリコン1位の大ヒットを記録し、一躍時の人となりました。これだけでも十分ヒーローですよね。当時は23歳で、教師役なのに自分より年上の生徒役の役者がいたという話もありました。

 

しかし、これだけではとどまらないのがこの方の凄いところです。

 

翌1975(昭和50)年は「太陽にほえろ!」のジーパン刑事役を卒業した松田優作氏とコンビを組み「俺たちの勲章」という刑事ドラマで刑事を演じます。

刑事でもヒーロー?と思うでしょうが、彼の演じた役で「刑事」に関してはインパクトの大きな、世間に影響を与えるような役柄はなかったように感じられました。この作品では松田氏演じる中野刑事と対照的なキャラクターとして描かれ、ハードでワイルドな松田氏に対して、ソフトでナイーブな刑事像を演じていました。松田氏のフォロワー的な感じ、個人的にはそんな印象でしたね。

 

そして、この次に当たり役にめぐり会います。

 

俺たちの旅です。

 

1975年10月から1年間放送(当初予定は半年)され、すぐにカーッとなるカースケこと津村浩介という熱血漢の青年を等身大で演じて、個人的にはこの役こそが彼の演じた「最大のヒーロー」と思います。また中村雅俊といえばこの役!と真っ先に挙げる人は今でもまだ、多いのではないかと思います。

長髪に下駄ばきの主人公で、その日その日を精一杯に生きるキャラクターで、人はそれを「将来を見据えてない」とか「ふざけて生きてる」などと揶揄したりもしますが、前半は大学生としてバスケットをやりながらバイトにいそしみ、後半は就職するもののすぐに退職、自分自身で自分の人生を生きようとします。

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周りは就職して会社で社会人生活を営み、着々と人生という名のレールの上を歩み続けている、それを横目に「自分の人生は自分が楽しまなくてはいけない、それこそが人生なんだ」という彼の考えは社会の流れから乖離し、それでも組織やその他何かに縛られる事が人一倍嫌いな彼は独自の人生を歩み、やがて仲間たちも会社という枠組みを離れていきます。

自分たちで周りの人たちのために「なんとかする会社」を立ち上げて、あちこち奔走していく…という話ですが、組織に馴染めない「大人になり切れない大人」という考え方と、組織に縛られない「自由な発想のできる大人」という考え方もでき、それは個人の価値観の違いですが、当時昭和の狭いレンジでのものの考え方のはびこる時代にはある種「画期的」なドラマだったかもしれません。この主人公に共感して「俺もこんな生き方してみたいな」と思った若者は決して少なくなかったと思います。

そして、このドラマは10年後、20年後、そして30年(近く)後までが描かれ、それぞれスペシャルドラマとして放送され、これもまたものすごい事ですよね。青春ドラマの30年後を描く、という事は主人公も50代に入ってる訳ですが、それでもカースケはやはりカースケだった、と思わされる内容でした。やはり定職をもたず、その日その日を精一杯生きる男でした。そういう設定にしないとドラマとして成立しなかったのかもしれませんが…

 

俺たちの旅」の1年後に再び彼は日テレ青春ドラマ枠に戻ってきます。

1977(昭和52)年、「俺たちの祭」です。

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俺たちの旅」で主演し、次の「俺たちの朝」は「太陽にほえろ!」卒業後の勝野洋氏の主演で1年間放送され、これを受けての「俺たち」三部作の最終ともいえる作品です。

となれば「俺たちの旅」のカースケのような破天荒な主人公を視聴者側は想像し、期待するでしょう。しかし…

当初1年間放送の予定が2クールで打切り終了となりました…。

あまりに暗い部分が強調され、逆に明るく楽しい部分があまり描かれなくなり、独特の歯切れの悪さが残り、主人公も好きな相手と一緒に暮らすという「俺たちの旅」とあまりに乖離したその展開に視聴者は戸惑うしかなかったのでは、と思いました。この作品では明確な夢のもとに突き進むために、劇団員として日々挫折や苦悩を繰り返しそれでも前向きに生きる、という根っこは「俺たちの旅」と一緒なんですが。

 

翌1978(昭和53)年、久々に学園ドラマのフィールドに戻ってくるのが「青春ド真中!」です。

ここではバクダンとあだ名される産休補助教師である中原俊介役で、いわゆるハチャメチャ教師役で前の「俺たちの祭」と対照的なキャラクターを演じ、打ち切りになった「俺たちの祭」の穴埋めで制作された作品だそうですが、次につながるドラマとなりました。

 

「青春ド真中!」終了後すぐに同じ1978年に放送されたこの作品で、新たなヒーロー像を作り上げました。

「ゆうひが丘の総理大臣」です。

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前作のスピンオフでほぼ延長上にあり、継続出演した役者も多く、ガラッと変わった訳ではないのですが、やはり「青春ド真中!」はどこか繋ぎ作品的な要素が感じられ、「ゆうひが丘」はしっかりと完成されたドラマという印象でした。ちなみに「ゆうひが丘ー」は原作マンガがありますが、原作の舞台は中学校(このドラマでは高校)であったり、あまり関連性はないようです。

ここで演じた「総理」こと大岩雄二郎はガサツで破天荒そのものの英語教師で、生徒にいたずらされたら、いたずらし返したりしてハチャメチャそのもの。しかしクラスの生徒ひとりひとりに対して実に愛情をもって接し、自分自身がケンカばっかりしてたような人間だったので、そんな若者を見る目が優しくて、その気持ちが分かるという事だったと思います。

そんな教師ですが、教頭などからすると頭痛のタネになる存在で、生徒が毎日のように何かをしでかし、それがないかと思えば、大岩自身が何かをしでかすみたいな、いつもそんなハラハラするような学園内が描かれていました。

このクラスは当然のように「落ちこぼれ」(今では死語ですかね??)と称される不良生徒が何人かいて、彼らが色々と騒ぎを起こすことが多いのですが、彼らは決して関係のない第三者に危害を加えるようなことはせず、売られたケンカを買ったり、何か怒りがあって騒ぎを起こしたり、ちゃんと「筋の通った」不良たちだったな、と今にすれば思います。その点、良いドラマだったなと。

その後「金八先生」はこのドラマの終了と入れ替わるように登場するのですが、そのような路線の「前夜」的な時代の、幾分現実離れしていたかもしれませんが、ハチャメチャなようでさわやかな時代の学園ドラマの佳作でした。この「ソーリ」もまた、中村さんの当たり役として認知され停る役柄のひとつと思います。

 

この作品と掛け持ちで出ていたのが再び刑事役で主役でも準主役でもない役どころの大空港で、豪華なキャストとハードな作風で1年半以上放送されたものですが、ここで演じた鯉沼刑事はものすごい刑事という感じではなく、若手の一人という感じで、多忙のためか途中でセスナ機の中で格闘後、自爆のような形で墜落という殉職を遂げ降板しています。

大空港で殉職降板し「ゆうひが丘-」も終了した1979(昭和54)年には「われら行動派!」という、これは妻と死別し小さな子供と、自分の生きたいように生きている男という感じで、青春ドラマの要素もありつつやはり年齢が上がってる感がありました。

 

ヒーローという観点でいうと、これ以降では1983(昭和58)年に時代劇で登場した「必殺渡し人」で演じた殺し屋・惣太ですかね。殺しの相手の前に鏡を差し出し、死に顔を見せながら殺すというシーンを毎回見せ、普段の陽気なキャラクターと対照的というか、そんな落差を見せるのがさすが「必殺」シリーズと思いました。

あとは1985(昭和60)年から1年間放送された「誇りの報酬」ですね。これは前述「俺たちの勲章」の10年後を描いた作品として企画され、再び松田優作氏と共演が予定されていましたが、当時松田氏が刑事を演じる事に難色を示した事があり、根津甚八氏にチェンジし、中村氏の方が主役として先にクレジットされる形となりました。

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この作品は半年予定が1年間に延長されるほど好評だったのですが、後番組があの「あぶない刑事」で、完全にその陰に霞んでしまった感がありました。この作品がなかったら、あぶ刑事は誕生しなかったといわれますが、DVD化すらされず、なんとも残念です。

 

これ以降も青春の香りを残したカッコいい大人としてドラマ界を魅了した「青春ドラマのヒーロー」中村雅俊氏、ことし70歳を迎えましたが、いつまでも青春スターの雰囲気を漂わせたまま、ここまできているのが実に奇跡の存在です。これからもどんな役で魅せてくれるのか、まだまだ楽しみです。